【SEL】社会性と情動に関する8つの能力が身に付く 読み込まれました

SEL

2023.08.22

社会性と情動に関する8つの能力が身に付く

前編では、子どもの社会性と情動の能力(SEC)を高めることが重要な理由について、その前提となる、子どもが学習し能力を高めていくステップを小泉先生に解説してもらいました。中編では、社会性と情動の学習によって実際にどんな能力が身につくのかについて解説してもらいます。

――SELはどのような成果をもたらすのでしょうか。

次の図は、社会性と情動の学習(SEL)を推進するアメリカの組織(NPO)CASELが示した、社会性と情動のコンピテンス(能力)(SEC)の図です。

これは、ピンク色が自己に対するもの、緑色が他者に対するもの、青色がその両方を組み合わせたものです。

まずは、①「自己への気づき」。これは自分がどういう時にどんな感情を持ちやすいのか、自分が何をどれくらいできるのかという自分の能力を知ることです。

続いて、②「自己のコントロール」。これは何かがあったときに自分の感情をコントロールしたり、挫折や失敗を克服する能力や、目標達成に向けて取り組める能力などをどれほど持っているかということになります。

次に、③「他者への気づき」。これは他者の感情を理解したり、他者の立場に立ったり、多様な人の存在を承認できるといった能力です。

さらに④「対人関係」。これは他者と協力的で健全な関係づくりができたり、対人関係での問題解決ができたり、好ましくない他者からの誘いを拒否できたりする能力です。

そして、これら4つの能力と関係しますが、⑤「責任ある意思決定」ができる能力を育むことが大切です。選択肢とその結果を考慮し、他者を尊重した決定ができ、その自己の決定に責任を持つことができる力のことです。

――なるほど。この5つの能力を身につけることが、その後の学習や人間力向上に結びついていくというわけですね。

そうです。私は先行例をもとに独自の研究で、社会性と情動の能力にさらに3つの能力を加えています。

6つ目は、⑥「生活上の問題防止のスキル」。これは自己の健康を維持・管理し、病気や怪我を予防する力、社会規範を守り法令を遵守する力です。

7つ目は、⑦「人生の重要事態に対処する能力」。環境や立場が変わるときの環境変化に対処する力、家庭生活の課題解決と困難克服の力です。

8つ目は、⑧「積極的・貢献的な奉仕活動」。身近な他者への援助に関するボランティア精神の保持とボランティア活動実践の力です。

私は、CASELが示した5つの能力に⑥~⑧の3つの能力を加えて、これを養成する学習プログラム「社会性と情動の学習SEL-8シリーズ」を、幼児、小学生、中学生、高校生、教職者向けに開発し、参考書を出版しています。この参考書は現在、多数の学校で採用され、ワークショップ形式で実践されています。

――この実践によって何か成果はありましたか。

ある中学校では、SELの導入後3年間で学力が向上しました。この学力テストは、毎年中学3年生が受けます。2015年(平成27年)にSELを導入したところ、2年間は成果が上がりませんでしたが、導入時の1年生が3年生になった2017年には県平均と比べて11ポイント、次の学年は2018年に21ポイントも高くなりました。

また、SELが生徒のコミュニケーションを円滑にしたのではないかと思われる結果も出ました。同じA中学校では、SELを導入した後に、4年間で問題行動と不登校が大きく減少するという成果が得られました。導入年には153件あった問題行動が、4年後には47件に減少し、導入年には34人いた不登校生徒が、4年後には18人に減少したのです。

――大きな成果ですね。SELが子どもの教育において重要であることがよくわかりました。

では次回は、社会人においてもSELが効果をもたらすかどうかについて、私の考えをお伝えしたいと思います。

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